「鬼の詩」藤本義一(書評)

鬼の詩 (1974年)

鬼の詩 (1974年)

    藤本義一が映画監督、落語家、漫才師、三味線弾きをそれぞれ描いた短編集。又吉の「火花」に関連して紹介されてるのを見て読んでみた。

    昭和初期から30年辺りまでを舞台に昔気質の「芸」の世界が展開されるのだが、登場するのはどうにも面倒臭い輩ばかりで、いずれも「火花」の「師匠」の比ではない。特に三本目に登場する師匠が秀逸で、自分と弟子の其々の妻に対してかなり非常識なことを強要するのだが、弟子が死に際に放つ最後っ屁がこれまた強烈。

「火花」をディスるつもりは毛頭ないが、又吉はまだ新人なんだと強く思わせる筆力。

「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」西寺郷太(書評)

    we are〜の裏側エピソードと、音楽業界に与えた影響についてのマニアックな考察。

    前者については、関係者が多い中でデモテープ流出をどう防ぐか、参加者のうち誰に歌ってもらうか(またはコーラスで我慢してもらうか)等の苦労話が楽しい。パート割に際しても各アーティストの声域や声質を個別考慮とか気が遠くなるw

    一方で参加アーティストの多くがその後チャートから姿を消した理由をwe are〜に関連付けた分析はあまり頷けなかった。あと、前振りとはいえwe are〜以前の米ポップス史に前半丸々使うことないだろうに。

「女盗賊プーラン」プーラン・デヴィ(書評)

文庫 女盗賊プーラン 上 (草思社文庫)

文庫 女盗賊プーラン 上 (草思社文庫)

文庫 女盗賊プーラン 下 (草思社文庫)

文庫 女盗賊プーラン 下 (草思社文庫)

    インドの貧村で下層カーストに生れた少女。当然のように繰り返される暴力、いじめ、レイプに自分の運命を呪うが、盗賊団に誘拐されたのを転機に義賊としての新たな人生が始まる…

    実話、しかも比較的最近(約30年前)の話であることに何より驚く。独立時に廃止されたはずの身分制度は特に地方で慣習として根強く残り、後書きによれば著者の置かれていた境遇は特段珍しくはないらしい。

    また、同一人物が一つの物語でこれだけの回数レイプされるのをエロ小説含め読んだことがない。読んでて辛いが後半で度々悪を懲らしめるシーンは痛快。

「サイバーエージェント流 成長するしかけ」曽山哲人(書評)

 

サイバーエージェント流 成長するしかけ

サイバーエージェント流 成長するしかけ

 

    サイバーエージェントの人事戦略について、同社の人事担当役員が解説。

    事業内容やステージが違うのでそのままパクれるところは少ないが、根本的な戦略の話から細かな施策までいくつかのヒントをもらった。ノウハウをオープンにしてるのは①自信の表れ②コアな部分を隠している③ベンチャー界、ネット業界への貢献 のいずれか全てか。こういうのバカにして読まなかったんだけど、さらっと読んでアイデア拾っておくのは有意義と考えを改めた。但し読みすぎないこと、評判の良いものに限定することが鉄則。

「語られなかった敗者の国鉄改革」秋山謙祐

語られなかった敗者の国鉄改革

語られなかった敗者の国鉄改革

    国鉄の分割民営化を国労国鉄の中で最大の勢力を誇った労組で、最後まで抵抗を続けた)の立場から振り返ったもの。

    国労が何故そこまで力を持ち政治色を強め過激化していったのかを知りたかったのだが、そこはありきで話が進む。むしろ強大だった国労が崩壊していく過程、貧しかった著者が国鉄に職を得て成長していく過程が中心。加えて「政治家は新幹線でなく新幹線工事を求めている」の通り、癌は彼らだけではないとの主張に納得。

    先の「国鉄改革の真実」の著者葛西氏(要するに敵方)から書くことを勧められたとのエピソードも。

「国防」石破茂(書評)

国防 (新潮文庫)

国防 (新潮文庫)

    石破茂防衛庁長官退任当時に国防に関する持論(半分は世界的な原則)を纏めたもの。

「何もしない奴を誰も助けない」「防衛は慎重すぎるぐらいで丁度良い」という前提の下、防衛政策全般から個別の武器の話まで分かりやすく現実的な解説をしてくれる。一つ挙げると、ミサイル防衛によって原爆を持たない不利が軽減されていると初めて知った(恥)。

    巻末「自分は軍事オタクではない、男は多かれ少なかれ戦いや乗り物が好きなのだ」と言い訳しているが、この人は間違いなく「多かれ」でオタク。でも決してタカ派ではないことも確信した。

「歴史とプロパガンダ」有馬哲夫(書評)

歴史とプロパガンダ

歴史とプロパガンダ

    主に米国が、戦争にプロパガンダをどのように利用してきたか、それを知った上で個々の史実をどう理解すべきかの考察。

    日本との開戦に反対する世論をどのように説得したか、占領下の日本国民に対しどのように自虐史観を押付け直接の加害者である自身への恨みを削いだか等々について、公開されている文献を丁寧に読み込んだ興味深い分析ばかり。

    このような国家資料がきちんと公開されているアメリカという国の懐の深さと、二次大戦中の大統領2人のいい加減さ(それが原爆投下と北方領土問題に繋がったとのこと)の対比が強く印象に残った。

「人工知能 人類最悪にして最後の発明」ジェイムズ・バラット(書評)

人工知能 人類最悪にして最後の発明

人工知能 人類最悪にして最後の発明

    AI(人工知能)の進化は加速度的で、人間に追いついた後は瞬く間にその数百倍の能力を身につけ、人間による制御は不可能となり、自身を守るために(結果的に)人間を害する行為に及ぶようになると。

    軍事、投資の両分野における人工知能の暴走を例に「複雑になればなるほど予想のつかない結果を産みやすい」と指摘されると、(具体的なイメージはしにくいものの)そう遠くない将来におけるいやーな可能性を強く認識させられる。

    AIは我々の生活を更に「便利に」「安全に」「豊かに」してくれるものとの認識が160度ひっくり返された。

「国鉄改革の真実―宮廷革命と啓蒙運動」葛西敬之(書評)

 

国鉄改革の真実―「宮廷革命」と「啓蒙運動」

国鉄改革の真実―「宮廷革命」と「啓蒙運動

 

 

    旧国鉄(現JR各社)の分割民営化の軌跡。著者はJR東海の現名誉会長で、国鉄時代は改革派として分割民営化を推進した人物の一人。

    労組とそれを支援する社会党、省益最優先の運輸省が抵抗したり横槍を入れたりするのを、著者を含めた優秀なチームを率いて当時の国鉄トップと総理大臣(当時中曽根)が強いリーダーシップで押しのけていくという勧善懲悪物語。悪役が分かりやすくて笑える。

    また、分割後の東日本と東海の戦略(当初の期待値も)の違いも興味深く読んだ。分割してなかったら新幹線の品川駅もリニアもなかったな多分。

「ナイルパーチの女子会」柚木麻子(書評)

ナイルパーチの女子会

ナイルパーチの女子会

同性の友達ができないことにコンプレックスを持つ独身キャリアウーマンと、女同士の鬱陶しさを嫌い夫との慎ましやかな生活に満足する地味目の主婦ブロガー。タイトルや装丁からお気楽なOL話と思いきや、主人公女性二人が二度目に顔を合わせたあたりから一気に話がドロ沼化する。そこに更にキャピキャピ派遣社員とかカリスマセレブ主婦とか引きこもり女が投下されるのだが、彼女たちの語る「女同士の付き合いって何故そんなに難しいのか」「どういう女がどういう女をどういう風に見ているのか」に妙に納得したり同情したり。

「天地明察」冲方丁(書評)

 

天地明察

天地明察

 

  徳川政権が安定期に入る頃、ズレの目立ち始めた宣明暦に代わる新たな暦の導入プロジェクトが密かに始まった。大役を命じられたのは碁打ちの名門の二代目、「何故自分が」と戸惑いつつも周りの助けを得て少しずつ前に進み始める…

 棋士で算術好きっていう設定からしてマニアックだが史実。また歴史の主役ではない保科正之酒井忠清関孝和といった人物の扱いが大きいのも嬉しい。ちなみに、主人公が正之から彼に任せた理由を明かされる時、孝和から数学者としての思いの丈をぶつけられた時の二度落涙した。2010年本屋大賞も納得。

「ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか」ランドール・マロー(書評)

ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか

ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか

NASAの研究者が、アホな質問に対して科学的知識を総動員して大真面目に回答するという人気サイトの書籍化。


企画自体が知的なジョークなので掴みはオッケーだし、幾つかの話(デッドボールのオチとか最高)は実際ニヤニヤしながら読んだのだが、もともと理科嫌いの自分は途中から読むのがしんどくなって投げ出してしまった。

「TRANSIT(トランジット)特別編集号 美しきイスラームという場所2015」(書評)

 

 写真メインの雑誌なので遺跡や町並みや自然や女性の美しさだけ楽しもうと購入したのだが、後半の「イスラムいろいろ解説」が充実してて分かりやすかった。

 っていうか、そのせいで写真が少なくて物足りない。もともとそういう構成のムックなので仕方ないけど。

「家族スクランブル」田丸雅智(書評)

家族スクランブル

家族スクランブル

「家族」をテーマにしたショートショート集。


星新一(作者は孫弟子)を読み漁ってた身からすると、摩訶不思議な事象は出てくるものの現代を舞台としているのが新鮮に映る。一方で、作品の一つ一つに間延び感があるのは実際に1話あたりの分量が多いのかテンポが悪くてそう感じさせるのか。


話はずれるが、たまたま隣にあったドラえもん16巻の方がオチにキレがあると思った。何気にドラえもんってコミック形態のショートショートとも言えるんじゃないか。

「シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略」陳潤

シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略

シャオミ(Xiaomi) 世界最速1兆円IT企業の戦略

ハイスペック&低価格を掲げ、見た目はiPhoneのパクリながらスマホ市場の主役に一気に躍り出たシャオミ(中国)の経営戦略について。


製品への徹底したこだわりとかサプライヤーとのwin-winの関係とかは、実際そうなのかもしれないが企業の成功ストーリーとしてはありがちなので読み飛ばし。一方で、開発や改善におけるユーザー関与度が異常に高くユニーク。以下その他雑感。

・実際の製品レベルや過熱感を実感してないとすんなり入ってこない

・端末の低価格を支えるというスマホOSとアクセサリーがどれほど儲かるのか

・創業