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「王妃マリー・アントワネット」遠藤周作(書評)

 

王妃マリー・アントワネット〈上〉 (新潮文庫)

王妃マリー・アントワネット〈上〉 (新潮文庫)

 

 

 

王妃マリー・アントワネット〈下〉 (新潮文庫)

王妃マリー・アントワネット〈下〉 (新潮文庫)

 

 

    フランス革命で死刑となった同国最後の王妃の半生を描きつつ、一方で「革命」の熱量とその後の統制の難しさを説く歴史小説

    我儘で浪費家というお馴染みのキャラに加え、無能な夫ルイ16世や子供達への深い愛情、若き将校との道ならぬ恋にもギリギリのところで踏みとどまる貞淑さなど意外な一面も。サド侯爵、ナポレオン、モーツァルト等同時代の人物を友情出演させたり、史実として伝わるエピソードを所々に交えたりといった小細工も上手い。

    なぜ遠藤周作が?と思いつつ読み始めたが、途中でお得意の「神様不公平説」が出てきて納得。

「逆さ地図で読み解く世界情勢の本質」松本利秋(書評)

 

「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質 (SB新書)

「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質 (SB新書)

 

 

    他国に対して攻撃的な国々がなぜそうなのかを、それらの国のロケーションと歴史的背景から解説。

    国際的なルール違反はともかく(これも誰が決めたのかという問題はあるが)、彼らの行動があくまで防衛上の観点(=怯え、不安)に起因するものであり、欧米列強による植民地政策とはかなり性質の異なるものだと気付かされた。

    タイトルに拘るあまり全ての地図を逆さまにすることによって逆に見にくくなるページもあるのだが、視点を変えるにはそれぐらいの方がいいのかも。

「社会調査のウソ」谷岡一郎(書評)

    政府、マスコミ、学者等が行う社会調査(統計データやアンケート結果とその分析)の信憑性の低さについて。

    サンプルの選び方、設問の仕方、複数データの関連付け方次第で結論が如何様にもなることを、様々な事例を用い、統計学的要素は控えめにシンプルな論理立てで説明してくれる。意図的な誘導や無知無能の上に組立てられた結論が次々に崩されていく様は爽快だ。聞けばごもっともだが自分では気付けなかったポイントも多く、体感としてはこれまで6割疑ってかかってたのが9割超になりそう。

    15年かけて31刷に達したのは良書の証明。

「噂の女」奥田英朗(書評)

噂の女 (新潮文庫)

噂の女 (新潮文庫)

    美人ではないが妙に男好きのする容姿を武器に、恵まれない出自から高級クラブのママにまで上り詰める主人公。ただその周りには常に黒い噂が付きまとい…

    ありがちなストーリーだが、「噂の女」はどの章でもサブキャラ扱いで彼女以外の人物を中心に描くというフォーマットが新鮮なのと、章ごとに場面と彼女以外の人物がガラッと入れ替わるのだがそれがまた変化に富んでいて、陳腐さを感じることは最後までなかった。

    加えて、所謂マイルドヤンキーの生態系とか地方が抱える問題が巧みに織込まれてるのだが、単なる背景描写か作者の問題意識か。

「ルポ・橋下徹」朝日新聞大阪社会部(書評)

ルポ・橋下徹 (朝日新書)

ルポ・橋下徹 (朝日新書)

    大阪朝日新聞社会部が、自ら追い続けた橋下徹の政治家としての⚪️年間を総括。

    お約束の独善に走ることもなく、目の敵にされたこと(先に手を出したのは彼らだが)への復讐でもなく、丁寧な取材に基づいた事実の記録に終始している。特に彼のライフワークである都構想について、彼自身の主張や構想に至った過程、住民投票にこぎつけるまでの紆余曲折や政治的駆け引きについてわかりやすく整理されていて良い意味で拍子抜け。

    大阪が抱える構造的問題の深刻さと、都構想がそれを抜本的に解決しうる数少ない現実的な方法であることを再認識。

「学力の経済学」中室牧子(書評)

「学力」の経済学

「学力」の経済学

    教育に関する様々な疑問や定説について、実験やデータに基づき客観的に解説。

「TVゲームの時間を制限すべきか」等家庭教育の定番質問への回答も十分参考になるが、「少人数クラスは効果の割に高コスト」「世代内平等に拘った結果が世代間格差」等の政策に切り込んだ分析が出色。

    中でも「相関関係と因果関係を混同してる」「政策は感覚的判断でなくエビデンスに拠るべき」「平等意識のせいで有効なエビデンスを得るための実験ができない」等々、日本の教育政策の非合理性には憤りすら覚える。今年読んだノンフィクションのNo.1かも。

「田舎教師」田山花袋(書評)

田舎教師 (新潮文庫)

田舎教師 (新潮文庫)

    貧しさから勉学を諦め、田舎の小学校の教師に甘んじた主人公。夢をもって都会に出て行った友人たちへの嫉妬、貧乏な両親への思いやりと蔑み等をスパイスにしつつも、なんともまあのどかな田園風景と明治後期の日本の日常生活がゆったりとしたペースで描かれている。ドキドキもワクワクも皆無だが、それが逆に身近な人間と話してるかのように感じられ退屈はしない。

自然主義文学」とはこういうものか、っていうのを感覚的に理解できる作品。

「下流の宴」林真理子(書評)

 

下流の宴 (文春文庫)

下流の宴 (文春文庫)

 

 

「中流」の体裁を必死に守ろうとする母親と、それを冷めた目で見つめるフリーターの息子と、フリーターでありながら医者を目指すことで自らを認めさせようとするその婚約者。

    一流大学を出ていい会社に入って郊外に家を建てて…みたいな価値観の否定とドラゴン桜バリの大逆転受験劇の二つの要素がかなり強引にくっつけられた感があるが、それぞれ面白いので違和感なく読める。

    特に前者は、その母親をそういった価値観の象徴として徹底的にデフォルメすることでバカにしまくっていて、その嫌味加減が作者の本領発揮といったところか。

「メディアと自民党」西田亮介(書評)

メディアと自民党 (角川新書)

メディアと自民党 (角川新書)

    自民党のメディア戦略についての考察。ダサダサに映るネット対応も他党より圧倒的に進んでいるし、従来メディアへの対応も過去の経験がノウハウとして積み上がってて隙がないと。

    話題となったTV局への圧力については合法かつオープンなもので、むしろTV局側がもっと知恵を絞って対抗すべきと手厳しい。メディア側がビジネスとジャーナリズムの両面でだらしないので政治にフリーハンドを与えてしまっているとの指摘には頷くばかり。

    メディア側をディスってるが決して政権寄りではなく、むしろメディアの機能不全に対する警告の書。

NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2015年 9月号 [雑誌](書評)

    巻頭特集は「象牙の密猟」。簡単に象(と邪魔をする者)を殺す奴→値段を釣り上げる奴→高値でも買う奴という負の連鎖の中で、命懸けで象を守るレンジャー(自然公園の武装警備隊)の成果が少しずつ出始めているそうだ。表紙の写真は「精巧な偽象牙GPSを埋込み密猟者のルートに乗せてその行方を追跡」というかなり硬派なドッキリ仕掛けだが、残念ながら時間切れ結論持ち越し。それでも全体的に読み応えのある内容だった。

    ミャンマー最高峰(5000m超)への過酷な挑戦録や、カメレオンの変色メカニズムの新説等、他の特集にも満足。

「コーランには本当は何が書かれていたか」カーラ・パワー(書評)

 

コーランには本当は何が書かれていたか?

コーランには本当は何が書かれていたか?

 

 

    イスラム過激派はもちろんのこと、一般的とされているイスラムの慣習等もコーランやムハマッドの教えとの乖離が大きく、「本来はこんな趣旨なんだよ」的に解説。

    発祥以来、学者や政治家の様々な思惑や利害によって、またそれぞれの地域にあった風習や価値観を柔軟に取り込んで行ったことで、イスラム教は面倒くさい宗教になってしまった。「イスラム的なこと」に従って自己満足をえているだけならやらない方がマシ、と手厳しい。が、そんな感じのことを柔らかな慈愛に満ちた言葉で語るアクラム氏(著者ではないが本書の主役)は素敵だ。

「ネオ・チャイナ:富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望」エヴァン・オズノス(書評)

 

ネオ・チャイナ:富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望

ネオ・チャイナ:富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望

    驚異的な経済成長の中で「そこそこの成功」を手にした中国人10数名(ジャーナリスト、経済学者、ベンチャー社長、作家、ブロガー、芸術家…)を徹底取材し、現在の中国のリアルな姿に迫ろうとしたもの。らしい。

    全体像というよりはメディア他の情報発信者と当局の攻防が中心で、そこはかなり具体的で面白い(当局からの「お知らせ」文面とかw)。体制に不満を持つ輩を中心に取り上げているが、正面から立ち向う者、うまく折合いをつける者、諦める者と対処の仕方もそれによる結果も様々。

    結論めいたものが何もなく、少し物足りないかも。

「わたしの神様」小島慶子(書評)

 

わたしの神様

わたしの神様

 

 

    元TBSアナ小島慶子が、まさに女子アナを中心としたTV局内の醜い争いをネタに小説家デビュー。

    同期アナ、先輩アナ、女性記者、その他女子社員それぞれがそれぞれとぶつかり、自分勝手な都合のよい主張をぶつけ合う女だらけの時間差バトルロイヤルがドロドロで楽しい。半沢直樹のいない半沢直樹シリーズ(いやーな感じの銀行員しか出てこない)みたいで、所謂「正しいやつ」がおらずスッキリしないかと思いきや、それぞれが自己中過ぎて寧ろスッキリ。「私にはブスの気持ちがわからない」という冒頭のキレのよさが最後まで続く。

「道徳の時間」呉勝浩(書評)

道徳の時間

道徳の時間

    人気の教育評論家(?)が且つて自身が教鞭を振るった小学校での講演の最中に殺される、という10数年前の事件の真相を追う若い女と、そこに通う息子を持つ自宅謹慎中の記者。付近で連続している悪質な悪戯や地元資産家の自殺との関連を仄めかしながら、また互いを認めながらも相容れない部分のある二人を衝突させながら、少しずつ事件の背景が明らかになっていく…

    後半で話をまとめきれていないのと焦点がボケているのとでイマイチ。キャラ設定がよいのと前段の展開までは面白かっただけに残念。

「仮面ライダー 本郷猛の真実」藤岡弘、(書評)

仮面ライダー 本郷猛の真実 (ぶんか社文庫)

仮面ライダー 本郷猛の真実 (ぶんか社文庫)

    仮面ライダー1号こと本郷猛を演じた藤岡弘が、同作品を中心に自身の役者人生を振り返ったエッセイ。

    特に撮影中の事故で重傷を負った話(とその後の影響)が全体の半分近くを占めていて、残りもまあ人に教えたくなるような話題は少なくタイトル負けな感じ。たまに出演するバラエティ等で見せる時代錯誤な誠実さや不器用さが文章からも滲み出てて微笑ましいが、読み物としては物足りない。