「破獄」吉村昭(書評)

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)

    戦中から戦後にかけて四度の脱獄に成功した男、佐久間。彼がなぜ脱獄を繰り返したのか、なぜ最後(府中)はしなかったのか、彼の生い立ちやら当時の刑務所事情(設備、食事、看守、戦争がそれらに与えた影響等)からその深層心理に迫る。

    話は最初の脱獄の後から始まるのだが、恐るべきは彼が脱獄囚であることが看守達に重圧を与え、また佐久間自身もそれを逆手に取り心理的に優位に立っていくところ。その間に冷静に粘り強く算段を整えていたことに、看守達は毎度脱獄されてから気付く。

    途中でヒグマが友情出演するのは吉村昭作品故か。