「野坂昭如コレクション〈1〉ベトナム姐ちゃん」野坂昭如(書評)

野坂昭如コレクション〈1〉ベトナム姐ちゃん

野坂昭如コレクション〈1〉ベトナム姐ちゃん

エロ本、売春、ホモ、子作り(!)等々「性」に関する様々な題材を扱った野坂昭如の初期作品集。


美女が登場しないせいかあんまりエロくなく、高度経済成長期を舞台としているはずなのに薄汚くて湿っぽくて貧乏たらしく、それらを作為なく勢いだけで書いてる風なのに妙に文学的でなんとも言えない読後感を残す。


デビュー作の「初稿エロ事師たち」、表題にもある「ベトナム姐ちゃん」、新説?「マッチ売りの少女」等々どれも面白いが、雰囲気はどれも似たようなので全部読まなくてもよいかも。

「平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学」M・スコット・ペック(書評)

文庫 平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学 (草思社文庫)

文庫 平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学 (草思社文庫)

著者は米国の精神科医。患者と接するうちに彼らを追込んだ周囲の人間にこそ治療の必要有との思いを抱くようになり、患者の親やパートナー等の(著者や患者に対する)言動を観察した経過・結果をまとめたのが本書。


出世のために他人を蹴落とす奴とか詐欺の常習犯とか浮気症とかを想像して読み始めて肩透し喰らったが、まあよく考えれば同じことかと納得するし、自分の子育てにも反省すべき点が多いと気づかされる。


ただ「人間の悪を科学的に究明」等の紹介文は盛り杉。著者自身もその必要性は訴えているが究明できたとは思っていない。

「謎の独立国家ソマリランド」高野秀行(書評)

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

内戦状態の続く旧ソマリアで奇跡的に平和を維持し民主政治を実現しているソマリランドと、それ以外のドンパチやってるエリア双方への潜入レポ。


アフリカに多い部族間争いでなく同じソマリ人でありながらエリアによってなぜ全く異なる状況になっているのか、互いをどう評価しているのか等をその珍道中な取材過程と合せて解説。いろんな意味で危険な領域に足を踏み入れているにも関らず、ソマリへの愛情溢れる軽い文体のせいでそれを全く感じさせない。


著者は、細かな話よりもソマリランドやソマリ人の存在自体を知ってほしいのだろうな。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」村上春樹(書評)

発売当時はお祭り騒ぎに辟易して読まなかったのだが、二年経って軽い気持ちで手に取った。


イヤミな春樹的要素(主人公のモテ具合とか音楽ネタ散りばめとか悪戯に面倒臭い比喩とか)は一定量あるものの、導入部の「色」の紹介から後半の「巡礼」までストーリー自体は懲りすぎず分り易い展開で、それでいて十分な満足感をも味わえた(中盤で登場人物に「死とは」「自由とは」を理屈っぽく語らせる箇所を除く)。


この人、信者たちが作品に珍妙な解釈を加えたり自分を必要以上に神格化したりそもそもその存在自体が嫌になったんじゃないか。

「ニッポンの個人情報 「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ」鈴木正朝,高木浩光,山本一郎(書評)

個人情報保護(及び利用)をめぐる国や企業の取り組み、また不正利用や漏洩事件の事例について、「個人情報フリーク」を自認する3人のトークセッションを書籍化。


ネット界ではそれなりに存在感を有する(していた?)人達ではあるが、発言の一つ一つに「何事にもひとこと言わないと気が済まない面倒臭い人」オーラが出まくってて、大事なこと言ってたり鋭い指摘もあったりするのだろうが嫌悪感が先に立ってしまって途中でやめた。


と思ったら前の前の勤務先が版元だった…

「完全図解 医療のしくみ」読売新聞医療情報部(書評)

 

完全図解 医療のしくみ (健康ライブラリー)

完全図解 医療のしくみ (健康ライブラリー)

 

 

    現在の日本の医療全般について、平易な文章と図表を用いて解説。

    分野・.地域ごとの医者や看護師の過不足、救急患者のたらい回しや医療事故、保険や年金制度の破綻等々(等々…かなり広範囲)ネガティヴな項目の背景や要因については、ある程度業界内でコンセンサスが取れているであろう範囲内で無難に説明している感じ。一方で、メジャーな疾病に関する最新の治療法や薬についてはもう少し突っ込んで書いてる感じ。物足りないけど、ベースの知識を蓄えたり復習したりするには良書。

「四人組がいた。」高村薫(書評)

四人組がいた。

四人組がいた。

現役を退いたもののヒマと野次馬根性を持て余す元村長・助役・郵便局長・女将のジジババ四人組が、屁理屈と作り話で近隣の住民にちょっかいを出したり怪しげな来訪者をやり込めたり。


部分的にスカッとするところもないではないが、最後まで読むのは苦痛でわざとらしい言い回しに何度も不快感を覚えた。デビュー作「黄金を抱いて飛べ」も、わざとらしい「壮大なスケール」の演出が鼻についたが同じように「ラストにきっと何かあるはず」という妙な期待感だけで最後まで読んでガッカリしたのを思い出した。よって読まない作家リストに追加。

「土漠の花」月村了衛(書評)

土漠の花

土漠の花

    ソマリアの海岸に墜落した戦闘機の探索と救援に向った自衛隊の一部隊のところへ助けを求め飛込んできた黒人の女。敵対する部族に家族を殺され自身も追われているその女を保護すべきか否かの議論の間もなく敵方の襲撃が始まり、隊員たちは否応なく戦闘の矢面に…

    武装して戦地に赴く以上「安全な場所で安全な作業だけ請け負う」なんて不可能だということを強く訴え掛けるストーリーで、集団的自衛権等について考えながら読むのが正しいのだろうが単なるアクションものとしても十分楽しめる。

    新開みたいなキャラはズルい、主人公が気の毒だ。

「Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール」Nir Eyal,Ryan Hoover(書評)

    ユーザーが個々のウェブサービスを習慣的に使うようになるカラクリ(=ハマる仕掛け)を「きっかけ」「行動」「報酬」「投資」の4ステップに分けて、誰もが知るネット企業の例を挙げながら考察。

    事例の一つ一つは参考になるんだけど、無理くり理論付けて整理したような印象が否めない。個別に参考になるのは間違いないので、頭の隅に入れといて必要な時に出てくればいいし出て来なければその程度のものだと割り切って読んだ。章ごとのチェックシートも行き詰まった時のヒント探し程度に使うのがよさげ。

SWITCH Vol.33 No.4 Southern All Stars [我が名はサザン](書評)

SWITCH Vol.33 No.4  Southern All Stars [我が名はサザン]

SWITCH Vol.33 No.4 Southern All Stars [我が名はサザン]

活動再開したサザン特集を読むために購入したが…

・ボリューム少ない

・インタビューつまらない

・政治メッセージ色強くなっていくのイヤ

であまり楽しめなかった。ボリュームは立ち読みで確認すればよかったし、再開時のインタビューは毎度メンバーを褒め称える無難なコメントが多いの知ってたし、政治色はソロも含めてだいぶ前からそんな傾向あったし表紙見て衝動買いした自分を責めるしかない。

「おじいちゃんが孫に語る戦争」田原総一朗(書評)

    ジャーナリスト田原総一朗が、太平洋戦争について自身の体験に基づきながら自分の二人の孫(ともに小5)に語る、という体で書いた本。

    子供向けに噛み砕いた文章ではあるが、「日本はなぜあの戦争を始めたのか」「なぜ負けたのか」「戦後どのような道を辿ってきたのか」について、かなりオトナな内容を語っていて驚く。戦争はいけないことだと結んではいるが、プロパガンダ的に戦争反対を唱えるのでなく、日本が追い込まれていった過程を追いながらどうすれば戦争を防げたかを考えさせるような自然な書きぶりに拍手。

「スープ・オペラ」阿川佐和子(書評)

スープ・オペラ (新潮文庫)

スープ・オペラ (新潮文庫)

    幼い頃から親代わりとなって育ててくれた叔母と二人で暮らす35歳未婚女子。還暦直前に叔母が突然の駆け落ち、時を合わせるように陽気な初老の画家と弱気な年下の編集者が家に転がり込む。食事当番は必ずスープを作らなければならないという奇妙なルールの下で奇妙な同居生活が始まり…

    テンポがよくて読みやすいが、作品全体に昭和の香りが漂うからか(平17の作品だけど)軽い感じはしない。そしてその香りの源である叔母と画家のキャラが立ちまくってるのだが、それが主人公の存在感を損なうことなくキチンと脇役に収まってるのが上手い。

「韓国人による恥韓論」シンシアリー(書評)

韓国人による恥韓論 (扶桑社新書)

韓国人による恥韓論 (扶桑社新書)

    韓国人による自国批判ブログの書籍化。民族固有の価値観・思考とか最近の国家としての言動について「恥ずかしい」「情けない」と嘆き、突飛な主張に対してロジカルに反論している。

    反日に絡む箇所は(日本人からすれば)そんなもんだろうという感じだが、「誰が相手かも分らない無差別で全方位的な序列意識」は想像を遥かに超えていて、反日に留まらず多方面に害を撒き散らし自らの首を絞めているようにも見える。

    日本贔屓の書ではあるが、(自国内での)少数派としての泣き言が多く読んでて気持ちのよいものではなかった。

「それを愛とは呼ばず」桜木紫乃(書評)

それを愛とは呼ばず

それを愛とは呼ばず

    妻の経営する会社で実直にナンバー2を務めていた54歳の元ホテルマン。妻の交通事故を機に義理の息子に会社を追われ、古びたリゾートマンション販売員として北海道へ。そこに不幸な過去を背負う者が1人2人…

    老夫婦の仲睦まじい会話から始まるので、直木賞作品「ホテルローヤル」よろしくまた年寄りのセックス読まされるのかと思いきや妻は早々に意識不明に。その穴を埋めるように登場するアラサー美女が主人公に想いを寄せていくのだが、これがおじさん読者にはたまらない。

    ハッピーエンドとは言えない結末も、何故か読後感は爽やか。

「明治維新と幕臣 - 「ノンキャリア」の底力」門松秀樹(書評)

薩長を中心とした明治政府のメンバーは天下国家は語れても国レベルの行政経験&ノウハウがなく、そこを埋めたのは江戸幕府の官僚組織(特に下級の役人、所謂「ノンキャリ」)で、新政府が混乱少なくスタートを切れたのは彼らが優秀で勤勉だったからとの分析。


面白い視点だし確かにその通りかもしれないが、掘り下げた説明(というか史実)がそれほど面白くはなかった&前政権の無形資産を上手く取り込んだ新政府の手際こそ評価すべきではと感じた。背表紙読んで満足しておけばよかったw