「黒南風の海」伊東潤(書評)
秀吉の二度に渡る朝鮮出兵を小説化。
先兵となった加藤清正の部隊を中心に、豊臣家中の勢力争い、大義なき戦略戦争に臨む兵士たちの心情、両国に明を加えた当時の複雑な外交バランス等といった要素を織り込みながら話は進む。清正はともかく三成や行長までもが秀吉を欺いてまで収束させようとしてて、誰も望まぬ戦いだったことがわかる。加えて清正の配下ながら訳あって敵方に降った沙也加(不知だったが実在の人物)の存在がよいアクセントとなっている。
マニアックな題材だが、それなりに資料もあり史実が相当に盛込まれてる印象の良作。
- 作者: 伊東潤
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2011/07/09
- メディア: 単行本
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「バイエルの謎」安田寛(書評)
ピアノを習う殆どの子供が最初に手にする教則本バイエル。ただそんな状況にあるのが日本だけだということ、何よりバイエル自身の情報が殆どないこと等に疑問を感じた筆者が彼の足跡や功績を探しに世界各地を巡る。
そもそも彼が存在したことすら否定するような「チェルニーのセカンドブランド」説、「複数人でのペンネーム説」等を持ち出し(過去にも諸説あったらしい)散々謎めかした挙句、最後の最後で死亡時の戸籍記録と詳細な新聞特集記事というあまりにもドンピシャな資料が出てくるっていうのがなんかワザとらしくて読後感悪い。
- 作者: 安田寛
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/02/27
- メディア: 文庫
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「小説 新聞社販売局」幸田泉(書評)
半沢直樹風の勧善懲悪企業小説の体を装っているが、実体は元記者による業界批判&暴露本。
自社に批判的な記事を書いたことで上席に疎まれ販売局に放出という自身と全く同じ設定の主人公に、自身がなし得なかった社内不正の摘発や元上司への仕返しをさせて憂さ晴らしまくりで気持イイ。
しかし押し紙(販売店に対する割増仕入の強制)は実売の4〜5割増しに達し、当然に発行部数はその分上乗せして公表され(寧ろそれが目的)、支払が滞る販売店が増え、それを隠すために社員が立替え、そのカネの手当のために‥ともう完全に詰んでるな新聞。
- 作者: 幸田泉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/09/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「カルチャノミクス」エレツ・エイデン他(書評)
- 作者: エレツエイデン,ジャン=バティーストミシェル,高安美佐子,阪本芳久
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2016/02/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「さかしま」梁石日(書評)
終戦直後の大阪を舞台にした連作短編2本同じような雰囲気の短編数本。
- 作者: 梁石日
- 出版社/メーカー: アートン
- 発売日: 1999/11
- メディア: 単行本
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「さかしま」藤田宜永(書評)
ユイスマンス「さかしま」のついで読み。
夜の銀座を舞台にしたミステリー。かつて同じ店に在籍したホステス2人が連続で殺され、関与が疑われたその店のバーテンが自ら真相究明に乗り出すが…
謎解き要素にそれほど惹きつけるものはなく、ホステス達の日常やそこに通う客の思惑等水商売の描写に詳しいかといえばそこも期待した程ではないが、昭和を感じさせる舞台と登場人物のおかげでまあそれなりには楽しめた。
この人の作風はよく知らないが、「男性の主人公が女性に囲まれる昭和っぽい作品」なら一昨年の「女系の総督」の方が上。
「英国メディア史」小林恭子(書評)
ルネッサンスにおける活版印刷の発明から、産業革命を経てインターネットの普及した現在に至るまでの英国内のメディアの盛衰史。
まず「聖書」の印刷から始まることに軽く驚く。その後は当然に新聞⇨ラジオ⇨テレビ⇨ネットの順で登場してくるのだが、中でも入れ替わらずに最後まで出突っ張りの新聞の話が際立って面白い。新規参入が(海外からも含め)絶えないこと、ビジネスモデルが多岐に渡ること、新旧問わずパクリにも差別化にも積極的なこと等絶えず動きが激しくて、それ自体が物語として楽しい。
翻訳本かと思ったが著者は日本人。
「朝日新聞〜日本型組織の崩壊」朝日新聞記者有志(書評)
- 作者: 朝日新聞記者有志
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/01/20
- メディア: 単行本
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朝日新聞で慰安婦記事捏造、吉田調書問題、池上彰コラム掲載拒否と不祥事が続いた背景について、同社の現役記者有志が明かす。
曰く、「左翼」「リベラル」的な思想の持ち主はゼロではないが少数派で、消費増税も改憲も賛成派の方が多く、むしろ問題は出世争いや保身を動機とした足の引っ張り合いやトップへの隷従といった大企業病であり、右とか左とか以前に「サラリーマン化してジャーナリズムを失った状態」らしい。
真相に近くかつ立て直しはほぼ不可能と思わせる内容で、同紙のスタンスに批判的なはずの自分が一抹の寂しさを覚えるほど。
「でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相 」福田ますみ(書評)
気に入らない教え子に暴力暴言を繰り返しPTSDにまで追い込んだ悪魔のような小学校教師。母親の訴えに学校は迅速に対応するもマスコミが嗅ぎつけ話は全国に拡がり、市を相手取った訴訟では五百人の大弁護団が結成され…
タイトル通り親の話は全て嘘。変な人オーラ出まくりの母親の話を校長に始まり教育委員会、マスコミ、医者や弁護士までが鵜呑みにし、1人の気弱な教師が社会的抹殺直前まで一瞬にして追い込まれていく様が恐ろしい。「真実を見極める」というレベルでなく、ごく普通に考えて「嘘つけ」と言えない大人が多すぎることに絶句。
「関東大震災」吉村昭(書評)
「誰も知らない男 なぜイエスは世界一有名になったか」ブルース・バートン(書評)
元広告マンが、イエスを神や預言者としてでなく一人の人間として評価するという罰当り?な企画。
信仰の対象を①陽気で社交的(磔にされうなだれているイメージとの対比)②ディベートに強い&優秀な宣伝マン(言語感覚への評価)③成功した経営者(結果的に世界中に教えを広めた)として見直すと確かに面白い。元広告マンらしく、特に②における考察は見事。一方で③についてはチープな自己啓発書っぽくて辟易。
一番ウケたのは、イエスが生まれる晩に部屋を探していた身重のマリアを追い返し、格好の宣伝ネタを逃した宿屋の主人の話。
「香港 中国と向き合う自由都市」倉田徹他(書評)
- 作者: 倉田徹,張彧暋(チョウイクマン)
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/12/19
- メディア: 新書
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「植民地でありながら自由と経済発展を謳歌する香港」と「一国二制度下の香港」との間で何がどのように変わったのか、三者(中、英、住民)はそれぞれどんな思惑で動いたのか。
英国と中国のつばぜり合いも其々がしたたかで十分に面白いのだが、それ以上に住民についての分析が興味深かった。元々本国からの難民であった彼らが対極にあるような英中の政府をどう見てきたかとか、今でこそデモを繰り返す彼らが元々は政治から距離を置いてきたこととか、それらとも絡めて彼らのアイデンティティーはどうだとか、マンゴープリンとか杏仁豆腐とか。
「ベストセラーの世界史」フレデリック・ルヴィロワ(書評)
- 作者: フレデリック・ルヴィロワ,大原宣久,三枝大修
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2013/06/29
- メディア: 単行本
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過去のベストセラー本の紹介ではなく、ベストセラーという現象そのものの歴史。言葉の再定義に始まり、国や言語による差異、印刷技術の発展、検閲・弾圧等の影響、編集者の専門性の向上、広告等々…様々な要素が書籍の販売部数にどのような影響を与えてきたかを辿る。
目から鱗が落ちたり思わず⚪️⚪️するような話は数えるほどしかなかったたものの、具体的な作品名、著者、内容、その背景を絡めて解説されればそれはそれで楽しく、取り上げられた作品自体には殆ど興味が湧かなかったほど。しかし本をヒットさせるのもそれを防ぐのも難しい。
「1行バカ売れ」川上徹也(書評)
- 作者: 川上徹也
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2015/08/07
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世の中を変えた、あるいはそこまでいかなくてもそれまで注目されなかったモノを一気にヒット商品に押し上げた名コピーの数々を類型化しながら解説。
まあありがちな本だし個人的にはコピーなんて九割九分センスであって法則なんてモノは後講釈でしかないと思っているが、そこそこの成果を出すとか身近なところに役立てる程度であれば、所謂「法則」を意識することで勝率を上げることはできそうだ。
それより何より、やはりデキのいいコピーは見るだけで楽しい。